評者 衆議院議員 野田聖子 日経ビジネス
万能ではない米国流

  私自身、政治の道に入る前に帝国ホテルで勤務した経験を持っている。そのため、あの 有名なプラザホテルの仕組みはどうなっているのか知りたいと考えたことが、本書を手にし たきっかけだ。読み進めていくうちに「日本人と米国人は違う」という、言ってみればあたりま えのことを再認識させられた。
 一例をあげると、清掃係に頼んだ部屋の電球交換が半日経っても放置されていたり、ベ ルマンに渡した洗濯物が行方不明になったりすることが日常茶飯事だとあった。日本のホ テルではまずこうしたことは起こらないだろう。
 米国では勤務時間内だけ働けばいいと考える給料の安い従業員が現場を担当する。そう した人たちの失敗やミスを、給与の高いマネジメント層がカバーする仕組みになっている。
 日本では相対的に給与格差が小さい分、全員でサービス向上を目指して努力する。帝国 ホテルでもフロント担当者がお客様に傘をお持ちするといった職種を超えたサービスは当た り前のことで、むしろお客様のためにそうするべきだという教育を受けていた。
 壁にあたっているとはいえ、日本には日本の良さがある。にもかかわらず、日本はいまだ に米国だけを見て、米国を後追いしようとする雰囲気がある。改革が必要であることは言う までもない。とはいえ、米国流の改革のみを声高に叫び、それですべての問題が解決する と言わんばかりの論理に接していると、お笑いじゃないけれど「欧米か」とツッコミを入れたく なる。
 もちろん、プラザの優れた点は多々あるし、我々が米国に学ぶ点も多い。クレームに対す る毅然とした姿勢はその象徴だ。日本ではクレームを声高に叫ぶ人を優遇し、事を穏便に 済ませようと試みる。霞ヶ関と永田町の関係にも似たようなもので、「あの政治家を怒らせた ら大変だ」と、官僚たちは文句の多い政治家を手厚くフォローする。一方で米国では本書の 例にもある通り、自分たちの利益をそこなうかどうかという基準を最優先してクレームに対 処する。日本のやりかたでは、文句を言わない消費者や有権者は結局、損をすることになっ てしまう。ドライに見える米国型の方がサイレントマジョリティーの利益を守ることになる。
 米国の長所は大いに学べばいい。それでも、私たちは認識すべきである。どうひっくり返っ ても日本人は米国人にはなれないと。米国一辺倒の「改革熱」から脱し、日本的な実のある 改革を志す機は熟しているのだから。